第5回三笠宮オリエント学術賞授賞について
会長 近藤 二郎
日本オリエント学会では、本学会の創立者のおひとりで、日本におけるオリエント研究の推進者であられる三笠宮崇仁殿下の名を冠した「三笠宮オリエント学術賞」を設け、日本におけるオリエント研究の発展に大きな学術的貢献をなすと判断される業績を顕彰し、もって研究者の育成に資することとしています。
厳正なる審査の結果、下記会員に第5回三笠宮オリエント学術賞を授賞することを決定いたしましたので、ご報告申し上げます。
受賞者 | 家島 彦一 (東京外国語大学名誉教授) |
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受賞業績 | 『イブン・バットゥータと境域への旅──『大旅行記』をめぐる新研究』名古屋大学出版会、2017 |
選考経過 | 当学会では、会員や関連学会に対し学会ウェブサイト、学会メーリングリストその他を通じて2018年10月30日より被推薦者の募集を行った。その結果、募集締切りの2019年1月18日までに3件の業績が推薦された。 理事会が選任した選考委員会は、各業績の内容とその推薦理由を子細に検討したうえで、全委員で意見交換を行い、家島彦一氏を第5回三笠宮オリエント学術賞の受賞候補者として理事会に推薦することとした。 理事会は、2019年3月22日に開催された第560回の会合において、選考委員会からの推挙を全会一致で承認し、家島彦一氏に第5回三笠宮オリエント学術賞を授与することを決定した。 |
授賞理由 | 家島彦一氏は、文献による実証研究を基礎にフィールド調査による知見も加えて、西アジアを中心とした地域における歴史的な交通路研究、さらにそこから発展させて海域史研究を先駆者として牽引してきた。その成果は、『イスラム世界の成立と国際商業』(岩波書店、1991年)、『海が創る文明──インド洋海域世界の歴史』(朝日新聞社、1993年)、『海域から見た歴史──インド洋と地中海を結ぶ交流史』(名古屋大出版会、2006年)といった著書にも結実している。 これらの業績の下敷きにもなっているのが、大旅行家イブン・バットゥータの旅行記研究である。イブン・バットゥータの旅行記については、平凡社・東洋文庫シリーズから全8巻の翻訳を刊行しており、世界史教育の現場にも大きな影響を与えている訳業である。イブン・ジュバイル旅行記の新訳や、他のインド洋海域史料の翻訳書刊行、新発見史料の校訂出版もきわめて重要な貢献と看做される。家島氏の研究は、オリエント地域のみに留まらず、東南アジアなど近隣地域世界研究にも及んでおり、きわめて多くの研究者・教育者がその業績の恩恵に浴している。 本受賞作はそのような家島氏のイブン・バットゥータならびに関連研究の集大成である。「イブン・バットゥータ研究のために」「海の境域への旅──イブン・バットゥータの見たインド洋海域世界」「陸の境域への旅──ユーラシアとサハラ・スーダーン」の三部に分けられた計14章の論稿は、イブン・バットゥータ研究の基礎的知識と問題点、海および陸のイスラーム境域世界の特徴やその交流を鮮明に描き出す。日本におけるオリエント研究の発展に大きな学術的貢献をなす業績となることは疑いない。 |
授賞式 | 日時: 令和元年6月8日(土) 午後1時より 会場: 東京都新宿区戸山1丁目24-1 早稲田大学戸山キャンパス34号館452教室 |