第34回(平成24年度)奨励賞受賞者 (平成24年11月24日授与)
氏名 | 受賞論文 |
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小野塚拓造 | “Keeping Up with the Demand for Oil?: Reconsidering the Unique Oil Press from Late Bronze Age IIB to Iron Age IIA in the Southern Levant,” Orient 47 (2012) |
貝原哲生 | 「6-7世紀中部エジプトにおける宗教的対立―地域社会の視点から」『オリエント』54/1 (2011) |
授賞理由
氏名 | 授賞理由 |
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小野塚拓造 |
本論文は南レヴァント地域において、先史時代後期に出現したオリーブ油生産施設であるオイル・プレス装置について考古学的に論じたものである。日本隊が発掘したイスラエルのテル・レヘシュ遺跡出土の新資料も含めて青銅器時代以降の関連遺構の出土例を網羅的に集成・分析し、当該期の南レヴァント地域のオリーブ油生産の変遷を周辺地域も視野に入れ検討している。その結果、青銅器時代後期にひとつの画期があり、効率的なオリーブ油生産の開始があったことを明らかにし、その背景としては、エーゲ海方面からのオリーブ油の輸入停止、エジプトにおける需要の高まりなどとの対応があるとの解釈を示した。本論文は、オリーブ油生産と社会変化との関連について初めて指摘した好論文であり、その点を含め、日本オリエント学会奨励賞にふさわしいと認め、同賞を授与することとした。 |
貝原哲生 |
本論文は、5世紀に端を発するカルケドン派と単性論派の対立が、6-7世紀当時の中部エジプトにおいていかなる展開を見せていたかを、ギリシア語パピルス史料などを丁寧にたどりながら明らかにしている。3都市を舞台に主教座、修道院、大土地所有者相互の関係を軸として、多角的に加えられた分析は見事であり、本論文は都市と農村の断絶に重ね合わせて宗教的対立を見る従来の定説のみならず、これを批判して、都市と農村の間に活発な社会関係がありながらも根深い対立が見られるとするウィプシュツカの新説をも相対化し、少なくとも中部エジプトにおいては、都市農村間の親密な関係の上に教義上の不一致が社会的対立を招かないよう、主要なアクターのいずれもが行動していた状況を示した。当該分野における貢献はもちろん、研究分野自体も我が国のオリエント研究をより豊かにしてくれるものとして銓衡委員会は高く評価し、本論文に日本オリエント学会奨励賞を授与することとした。 |