第35回(平成25年度)奨励賞受賞者 (平成25年10月26日授与)
氏名 | 所属機関・職名 (受賞対象論文執筆時) |
受賞論文 |
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安部雅史 | 東京文化財研究所文化遺産国際協力 センター特別研究員 | 「初期完新世湿潤期とマラリア―先土器新石器時代に起きたヨルダン渓谷からヨルダン高地への集落シフトに関する一仮説」『オリエント』55/1 (2012) |
遠藤春香 | 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士後期課程 | 「シャアラーニーの完全人間論―形而上学から社会的側面への展開」『オリエント』55/2 (2012) |
授賞理由
氏名 | 授賞理由 |
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安倍雅史 | 本論文は、南レヴァント地方の初期農耕民がヨルダン低地から高地へと居住地を転換した経緯と原因について考察したものである。すなわち、農耕牧畜確立期にあたる先土器新石器時代B期に顕著となった気候湿潤化がヨルダン低地にマラリアを蔓延させ、居住地の高地移動が選択されたのではないかとの仮説を提示している。 その際に、考古学的仮説を、歴史学における災害史、疾病史、環境史とリンクさせ、多様な観点から考察しており、独創性に富んだ、価値の高い研究である。 研究ノートという小論であり、また、十分な論証に至る以前の仮説提示段階なので、他の可能性の網羅的検討を踏まえた今後の研究のさらなる発展を期待する。 |
遠藤春香 | 本論文は、スーフィズム研究のなかではつとに名前が知られていながら、研究の進んでいないシャアラーニーを取り上げて正面から論じた清新な論文である。神秘主義の形而上学的次元についての研究が従来のスーフィズム研究の中心であったが、この論文では形而上学的「完全人間」に対応する形而下的な「完全な者」というシャアラーニーの考えに着目することで、従来の形而上学的神秘主義研究を超える視点を提出することに成功している。その際、これを法学や神学を含むイスラーム思想全体のなかに位置づけようとしている点も、独自の貢献と言える。 原典資料の詳細な読解、研究史における自らの論文の位置づけ、問題設定、論文の構成が整っており、分析にも深みがある優れた論攷と評価できる。 ただ、まだ端緒に就いたばかりの研究であり、今後、同一課題でさらに研究を深化させることを期待したい。 |